1 はじめに
静岡県は「ものづくり」が得意な県として、県内には機械、自動車部品、製紙、加工食品、プラスチック製品、衣料品等を製造する会社が多数あります。
これらの製造業は、例外はありますが、円安による原材料費の高騰、人手不足、物価高という外部要因によって、経営が苦しくなっています。
特に製造業の多くを占める中小零細会社の経営はコロナ禍の終息があったにもかかわらず、ゼロゼロ融資の返済の開始等もあっておしなべて苦しくなっているようです。
当事務所にも「返済予定を2度も3度もリスケしてもらっているにもかかわらず銀行への返済が厳しくなっている。」「追加融資を銀行に申請したが断られてしまった。」との中小零細会社の経営者の切実な声が寄せられています。
この場合、経営者が個人的にサラ金やクレジット会社から借入れて会社の返済に充当することもよく行われていますが、この結果はあまり芳しくありません。
返済のあてもないのに、他から借入れをすると、最後には経営者の家族や親族を巻き込むこともあり、事態はさらに悪化します。
あなたの経営する製造業を営む会社が債務超過に陥った際、会社の自己破産の申立てをすることも苦況を脱する1つの方法です。
製造業だからといって、他の業種と破産の申立て手続きがかわるということはありませんが、その特殊性もありますので、この点に留意して、破産申立て準備をする必要があります。
それでは、製造業の破産について説明します。
2 製造業の自己破産の特殊性
製造業においては、原材料や自社の製品などの在庫を多く保管していることが多い、その製造にしか使えない機械や設備を持っていることが多い、回収できない売掛金を多額に有していることがあるといったような事由があります。
製造業を営む中小零細会社が自己破産の申立てをするには、上記のような在庫や機械設備、売掛金債権が散逸しないよう、適切に管理、処分していかなければなりません。
これらは、後の債権者への配当に際しての大切な財産になりますから、会社が他の求めに応じ不当に安い価格で売却することはできませんし、場合によったら、そのような行為をすると、破産法による否認権行使の対象ともなります。
自己破産申立てを考えている場合、会社の営業停止日を決め、それにあわせて、仕入れの原材料を減らしたり、作業ラインの稼働を少なくしたりして、在庫が多くなる事態を防止しなければなりません。
あまり在庫が多いと、自己破産の申立てを委任した弁護士や裁判所から選任された破産管財人が困ることになります。
3 在庫の処分について
今、会社内にある在庫や原材料の所有権を誰が有しているかは、会社内にある契約書等を精査し、確定しなければなりません。
在庫や原材料が会社の所有物であるとしたら、次に早めに処分するか、自己破産の申立後に破産管財人に引き継いでもらうかを検討しなければなりません。
自己破産の申立て前に処分するか、そのまま破産管財人に引き継いでもらうかは、製造業の内容によって違いますが、早めに処分しないと、賃借建物の明渡しが遅くなり賃料の支払いが発生してしまう、会社の資産が少なく、自己破産の申立て費用が捻出できない場合、食料品をそのまま保管していると、全く価値がなくなってしまうというような場合には、早めに処分してもよろしいかと思います。
そのような場合も、適価で売却することが原則となっていますので、不当に安く売却する事は厳禁です。
このような場合、複数の業者に見積もりを提出させ、最も高い価格を提示した者に売却することが無難です。
そして、この売却によって得た金員の使途も一点の曇りもないように明らかにしておく必要があります。
処分しない場合は破産手続の中で、破産管財人が裁判所の許可を得て他に売却し換価することになります。
そして、破産管財人は、換価した金員を破産財団に入金して配当財源とします。
4 未回収の売掛金がある場合の取立て
会社の取引先に納めた製品があり、まだ売掛金の支払い日が到達しておらず回収していない事はよくあります。
自己破産の申立て費用が会社内にない場合、支払日前に売掛金の支払いを依頼し、協力してくれる取引先があれば回収し、それらの費用に充当する場合もあります。
この場合も入金の事実を明確にし、他から疑われないようにすることが大事です。
自己破産の申立代理人である弁護士が売掛金を回収することもありますが、自己破産の決定後、破産管財人に収支を明らかにして引き渡すことになります。
申立代理人により回収できない場合は、破産管財人が回収し、破産財団に入金することになります。
5 当事務所の製造業の破産の最近の取り扱い例
A社は、OA機器、スーパーの陳列棚等を製造販売する大手のB製作所の専属的下請として昭和53年頃から取引を続けてきました。
平成12年頃まではB社との取引も順調に進み、A社の経営内容も良好であったが、平成13年になるとB社からの発注が少なくなり、下請単価も抑えられて、A社の経営にかげりが生じました。
そのためにA社はB社以外の取引先も開拓し、何とか経営を続行してきたが、令和2年に入ってコロナ禍の中で受注額が少なくなり、遂に令和5年廃業するに至りました。
A社の資本金は1000万円であり、最盛期20名程いた従業員を徐々に減らし、最後にはB社からの受注も全くなくなったこともあり、平成28年には従業員が6名程になり、細々と製造業を続けてきました。
この間、銀行から何とか追加融資を受け、しのいできましたが、採算分岐ラインの3000万円以下の売上げしかあげられず、5000万円程の債務超過になり、上記のとおり令和5年廃業したが、令和6年になってA社の自己破産の申立てをしたものです。
このように、B社による下請けいじめもあり、コロナ禍の中で受注額も採算分岐ラインを割り、自己破産のやむなきに至ったものであり、A社の経営を亡父から引き継いだ子供のCが自己破産の決断をしたものです。
Cはこの後、サラリーマンとなり、頑張っています。
6 まとめ
このように父の代から長年経営を続けてきたA社を閉じることは、Cにとって無念のことでしたが、製造業、特に中小零細会社の経営が上向かない現状では、自己破産の選択も経営者自身の再出発に必要なことだと思われます。
会社の経営をしてきた事は、決して無になるものではありませんし、その経験を今後の社会人としての生活に活かすことができれば、それが又社会に対する貢献になります。
50年以上の古い歴史を有する当事務所は、中小零細な製造会社の経営者とも深い付きあいがあり、経営者の理解者として多くの事件を処理してきたという自負を有しています。
中小零細な製造会社の経営にお悩みになる経営者がいるならば、一早く当事務所にご連絡ください。
相談料は無料ですので、お気軽にご相談いただければ、必ず会社の活路をみいだすことができるものと確信しています。