1 はじめに
静岡県内には数多くの運送会社が存在し、全国的に営業所のある大きな会社もありますが、中小零細な会社もかなりの数があります。
最近の残業規制による運転手の雇用は運送会社にも人員不足、ひいては労働力の不足という事態を招き、運送会社の経営を揺るがせています。
又、物価高や燃料費、人件費の高騰は、経費の増大の要因になり、それを運賃に転嫁することも荷主との関係で容易にできず、このことが運送会社の収益構造を圧迫しています。
こうした経済環境の中で、静岡県内にも資金繰りに困り自己破産の申立てをする運送会社もボツボツと出始めています。
ここでは運送会社の自己破産の申立てに際し、特徴的なことを解説します。
2 運転手に対する対応
運送業の場合、運転手の労働時間が深夜にも亘り長時間に及ぶことが普通です。
特に、運送業に関しては、上記のように、働き方改革により令和6年4月から自動車運転業務における時間外労働(残業)の上限が年960時間にされました。
又、その時間外規制により、人件費も高騰傾向にあり、労働力不足にもなり、人手不足倒産も予測されるところです。
運送会社が自己破産の申立てをする場合、運転手を解雇しなければなりませんが、この際、時間外労働による未払いがあるか否かも確認し、これを破産手続内で処理したり、その前に清算する場合も発生します。
さらに、運転手がトラックを会社に持ち込んで労働しているような場合、表面上は下請契約とされている契約関係が、通常の雇用契約と同視されることもあります。
雇用契約とされた場合、労働基準法等の労働法規の適用があり、契約の終了に際しては解雇予告の手続が必要となることもあります。
又、会社は運転手に対する賃金を支払う余裕がなく、未払いのまま自己破産の申立てをした時は、未払賃金の立替払い制度が適用されるように各地の労働基準監督署に申請する必要があります。
未払賃金の立替払い制度とは、会社の倒産により賃金が未払いになった場合、未払賃金の一部を国が立替えて支払う制度で、賃金確保法に基づいています。
会社は自己破産申立後の運転手の生活が成り立つよう、上記の手続を積極的に活用しなければなりません。
この制度を利用するには、次の要件を充たす必要があります。
・会社が1年以上事業活動を行っていたこと
・会社が倒産したこと
・労働者が会社を退職していること
対象となる未払賃金は、定期的に支払われる賃金と退職金であり、立替払いされる金額は未払賃金の8割です。
上記のことが運転手に対する会社の重要な対応となります。
3 会社保有の車両の適切な保管
運送会社が自己破産の申立てをする場合には、トラック等の保有車両を適切に保管しておくことが何よりも重要です。
運送会社が保管しているトラック等は破産管財人により破産手続内で売却したりして換価され、配当財源になるもので、運転手からトラックの鍵を回収し、盗難や債権者に持っていかれないよう破産管財人に引き継がれるまで厳重に管理しなければなりません。
又、何者かによってトラックが持ち出され、交通事故が発生した場合は、トラックの所有者であるとして損害賠償責任が生じることもありますので、注意しなければなりません。
仮に、運転手に高速道路を使用するためのETCカードを交付してあれば、会社の債務を増やさないよう、これも回収しなければなりません。
会社が管理しているトラックの中にはリース車両があることも多く、その場合、リース会社に返還しなければなりません。
4 運送会社の営業を停止する時期
運送会社が営業を突然やめてしまうと、委託された荷物の運送ができなくなり、荷主に対して大きな迷惑をかけることになります。
そのために運送業務にとって荷主に最も影響が少ないと考えられる時期に営業を停止する配慮が必要となります。
破産手続開始後も、破産管財人が運送業務の一部を継続する場合がありますので、協力してくれる運転手を確保しておくことも大事です。
上記のように、運送会社の破産では荷主への損害をできるだけ少なくするために、業務を停止する時期をどの日にするのかというスケジュールを予め決めることが大事ですので、このことに注意を払う必要があります。
5 運送会社の破産手続の流れ
運送会社の破産手続も他の業種の会社と何ら変わることはなく、運送会社が地方裁判所に自己破産の申立てをすることから始まります。
裁判所は自己破産の申立てをした運送会社の代表者から破産をするに至った事由等を聴取し、破産手続開始の決定と併せて破産管財人が選任されます。
後は破産管財人が管財業務を行うことになりますので、会社保有財産であるトラック等の換価等について協力しなければなりません。
その後、債権者集会が開催され、破産管財人によって破産財団の現状や配当の見通し等が報告されます。
この集会には会社の代表者も出席することになりますが、代理人の弁護士も出席し、会社代表者を補佐してくれますので、心配は無用です。
この場で会社代表者を非難する債権者もいますが、そのようなことは当事務所の経験では少なく、ほとんどの場合、平穏に進められています。
債権者集会の後は、破産管財人により債権者に対する配当財源が確保できた場合、配当手続に移行し、配当財源がない場合には破産手続廃止となり、破産手続は終了します。
破産手続が終了した場合には、会社は消滅することになり、会社の負債も返さなくてもよいことになります。
しかし、会社の代表者等が会社の債務を連帯保証し、それが資産を上回る場合、連帯保証人自身も地方裁判所に自己破産の申立てをし、その手続の中で免責決定を得なければなりません。
そうしないと、いつまでも連帯保証債務が残存し、債権者の取立てが続くことになりますので注意が必要です。
6 まとめ
長年、経営してきた会社の自己破産の申立てをすることは、会社経営者にとって耐えがたいものがあります。
しかし、大きな債務の支払いに追われ、経営を続行することは、会社経営者自身の心身をむしばむことにもなります。
運送業務を通じ、経済社会のために貢献してきた会社経営者の実績は自己破産の申立てによって消失してしまうわけではありませんし、ましてや、人生の全てが意味がなくなってしまうわけではありません。
破産をしても、人生の再出発をし、順調に社会生活を送っている方は、当事務所の経験でも多数いらっしゃいます。
当事務所は50年以上の歴史を有し、会社破産の申立ても数多く担当してきています。
事務所内には会社破産の知識と経験が集積していますので、会社の経営状況が悪化し、将来の見通しも立たないと考えた時には、一刻も早く、当事務所にご連絡下さい。
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