小売業を営む会社や個人事業者の方の自己破産

1 はじめに

 小売業とは商品を消費者に販売し対価を得ている事業者のことで、会社や個人事業の形態をとります。

 総務省の日本標準産業分類では、次の2つの業務があげられています。

・個人用又は家庭用のために商品を販売する者
・建設業、農林水産業、製造業、運輸業、飲食店、宿泊業、病院、学校、官公庁等の産業用使用者に少量又は小額の商品を販売する者

そして、小売業の種類を次のように分類しています。

・各種商品小売業
・織物、衣服、身の回り品小売業
・飲食料品小売業
・機械器具小売業
・無店舗小売業

 

2 小売業の自己破産の特徴

 小売業は、上記のように多岐にわたっていますが、自己破産の申立てにおいては、売掛金は少なく、他方、買掛金は多額になるという小売業者がほとんどであり、それが小売業の自己破産の特徴となります。

 又、在庫の商品について、その所有権をめぐり、卸売業者との間に争いがあることが多いです。

 これも小売業の自己破産の特徴となります。

 

3 小売業の自己破産の原因

 小売業の自己破産の最大の原因は業績の不振です。

 端的にいえば、売上げが伸びず、数年にわたって債務超過の状態が続くことです。

 採算分岐ラインを明らかに下回っている状況でありながら、ズルズルと経営を続け、債務超過に陥ってしまう会社や個人事業主も存在します。

 この改善のためには売上げの不振の原因を取り除く対策を講じる必要がありますが、最早、それも期待できないとしたら、思い切って地方裁判所に自己破産の申立てをすることを決断しなければなりません。

 ズルズルと経営を続けた結果、手許に資金もなくなり、従業員に対する賃金や退職金を支払えなくなり、さらに、自己破産の申立ての費用も捻出することができず、地方裁判所へ自己破産の申立てができないことにもなります。

 

4 自己破産の申立てを選択せざるを得ない場合

 コロナ禍がほぼ終息したにもかかわらず、現在は物価高もあり、消費者の消費控えもあり、購買額は回復していないのが現状です。

 これは、わが国の消費者の懐具合があまり芳しくないという事情によるものであり、経済的利益が中小零細会社や個人事業者にも行きわたらない現状では、そこで働く労働者の賃金の上昇もないということになり、今後の売上げ上昇にはつながらないことになります。

 それらのことと、コロナ禍における金融機関に対するゼロゼロ融資の返済が開始され、手許資金が底をつき、自己破産の申立てを選択せざるをえないこともあります。

 このような悪化した状況の中で、小売業を続けることは、他から借金をせざるをえないこともあって、益々、小売業の経営を圧迫し、経営者自身が借金して経営資金にすることがあれば、経営者自身の生活を破綻させる最大の原因となります。

 もし、経営者自身が小売業をやめたいと考えた時は、自己破産の申立ても選択肢の1つにしなければならないと思います。

 自己破産の申立ては経営者自身の人生の失敗ではなく、人生の再出発の手段であると考えることが大切です。

 今までに小売業を営み、地域の人々の生活に貢献し、社会に役立ってきた事実は、自己破産で消えることはなく、そのような人々の営業をマイナスに評価することはできません。

 小売業を営む会社は自己破産の申立てで消失しても、経営者個人が会社のために保証をしていた場合、その保証債務は消失しません。

 この場合は、経営者自身も自己破産の申立てをして、裁判所による免責の決定を受け、保証責任も消失させなければなりません。

 こうして、初めて人生の再出発ができ、債務の不安から逃れた明るい生活を送ることが可能になるのです。

 このようにして経済的に再起をした経営者がいることは、当事務所も経験しています。

 当事務所は、経営状況が回復しないと考えたら、自己破産の申立てをお勧めしています。

 

5 自己破産申立ての手続

 自己破産手続は地方裁判所に申立書を提出して開始されますが、小売業を営む会社や個人事業者は、申立て前に次の点に注意したらよいでしょう。

・小売業の場合、従業員、取引先、賃借店舗の賃貸人、リース会社等の多くの債権者が存在し、それぞれの債権者との法律関係が異なる場合も多く、慎重に対応することが大切です。
・又、従業員の解雇手続きや雇止め、在庫商品の処理、店舗の明渡し、リース物件の返還にも注意を払う必要があります。

 このような処理は、通常、破産管財人の仕事になりますが、自己破産の申立て前に整理し、解決しておけば、その後の破産手続も円滑に進行しますし、破産管財人の負担も少なくなることになります。

 

6 当事務所の小売業の破産の最近の取扱い例

 A社は、大正元年に創業した古い歴史を有する製茶をし、それを小売りする個人事業者でしたが、昭和59年に法人化し、令和4年まで順調に経営がなされてきました。

 A社は自ら荒茶を製茶することはやめ、B農業協同組合から荒茶を仕入れ,自社工場で仕上げ、再加工をし、それを袋詰めして製品化し、消費者に売却していました。

 A社の資本金は750万円という小規模な有限会社でしたが、消費者の茶離れもあり、令和2年頃から1億円位あった売上高が徐々に減り始め、令和4年には売上高が8000万円を切り、損失が3000万円にもなり、A社の負債は約1億9000万円にも膨れてしまいました。

 A社の経営者は将来の見通しがないとし、当事務所に相談して、令和5年6月に地方裁判所に自己破産の申立てをすると共に、経営者自身も金融機関の債務の保証をしていたため、自己破産の申立てをしました。

 A社の経営者は、懸命に茶の小売業の業務に従事しましたが、消費者の茶離れや、折からのコロナ禍も影響して、売上高が減少し、やむなく自己破産の申立てをしたもので、まことにやむなきものがあると思います。

 

7 まとめ

 このように消費者の消費動向の変化や、コロナ等の感染症の拡大等の予め予想できない事情があって、自己破産の申立てをせざるを得ない場合もあります。

 A社の経営者は初めから自己破産の申立てを考えていたのではありませんが、最後は借金の苦しみから免れるためには、自己破産の申立てしかないと考え、人生の再出発をすることになったものです。

 長年にわたる茶の小売業の経験や社会に対する貢献は、自己破産の申立てによってなくなるわけではありません。

 自己破産によって社会復帰を果たし、再び経済社会で活躍する方も当事務所は経験しています。

 当事務所は真面目に会社の経営をしてきた経営者の思いを大切にし、再び、社会で活躍することを期待し、最大限の尽力をしたいと考えています。

 相談料は無料ですので、会社経営にお悩みの方や、個人事業者の方は、当事務所にお気軽にご連絡下さい。  相談後にはあなたのお顔にたとえわずかでも笑顔を見ることができれば、当事務所も、この上もなく幸福です。

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