はじめに
従業員を抱えている会社が破産を選択する場合、事業は廃業し,従業員も解雇することになります。突然、生活の基盤を失うことになる従業員の不安は極めて大きいものです。
ただ、会社破産における従業員への手続きを理解しておくと、従業員の不安を和らげることができます。
今回は、会社破産を決断した社長が最低限やるべきことをご説明します。
解雇のタイミングと解雇予告手当
解雇予告は原則30日前―破産申立前後どちらに行うか
従業員を解雇する場合、解雇日の30日前に解雇を予告することが原則です。例えば、令和8年5月31日に「6月30日をもって解雇する」という場合、5月31日に5月分の給与を、6月30日に6月分の給与を支払うことになります。
しかし、この予告をせずに従業員を解雇する場合は、解雇予告手当の支払いが義務付けられています。例えば、5月31日に「本日(解雇日)をもって解雇する(即日解雇)」という場合、5月31日に5月分の給与と解雇予告手当を支払うことになります。
解雇予告手当の計算方法
解雇予告手当は、1日当たりの平均賃金×予告期間の不足日数で計算します。
1日当たりの平均賃金
1日当たりの平均賃金は、「1日当たりの平均賃金=賃金総額÷総日数」で計算します。
但し、1円未満の端数は切り捨てます。
ア 賃金総額:解雇日の直前の3ヶ月間に支払われた給与の総額
税金や社会保険料を引き前の金額で、基本給、各種手当(通勤・家族・住宅手当、残業代等)をすべて含みます。
イ 総日数:その3ヶ月間の「暦日数」
解雇予告手当の具体的な算出(月給制・即日解雇の場合)
例えば以下のような場合を想定してみましょう。
賃金総額:90万円(4月分+3月分+2月分)
直近3ヶ月の暦日数:89日(30日+31日+28日)
今回の1日当たりの平均賃金は、90万円÷89日=1万0112円 となるので
この場合の解雇予告手当は、1万0112円×30日=30万3360円 と算出できます。
未払い給与・退職金を守る「未払賃金立替払制度」とは
国が立て替えてくれる上限と手続き
従業員を解雇した時点で、従業員に対し、未払給与・退職金がある場合、会社は、従業員の氏名、住所、電話番号、未払給与・退職金の金額を労働債権として「債権者一覧表」に記載し、「賃金台帳」「従業員名簿」を添えて、裁判所へ破産の申立てを行います。
ただ、会社に資産がない場合等には、未払給与・退職金も支払われません。
このような場合、未払賃金立替払制度があります。
この制度は、会社の破産などを理由に十分な未払給与・退職金の支払いを受けられない従業員に対し、労働者健康安全機構(以下「機構」といいます。)が会社に代わり未払給与・退職金総額の80%を立替てくれる制度です。
立替払いの対象となる未払給与等
対象となるのは、解雇日の6ヶ月前の日から機構に対する立替払請求の前日までの間に支払期日が来ている未払給与・退職金です。例えば、令和8年5月31日に即日解雇した場合、令和7年11月30日に支払期日が来ている未払給与は対象になりますが、それより前に支払期日が来ていた未払給与は対象になりません。
立替払いの金額の上限
立替払いされるのは未払給与・退職金総額の80%です。
但し、立替払いの対象となる未払給与・退職金総額には、次のとおり、解雇日の年齢による限度額がありますので、その限度額を超えるときは、その限度額の80%になります。
| 解雇日の年齢 | 未払給与等の限度額 | 立替払上限額(80%) |
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
例えば、解雇日の年齢が47歳、未払賃金等総額470万円(未払賃金総額150万円、退職金320万円)の場合、未払賃金等総額470万円が、45歳以上の限度額370万円を超えているので、立替払総額は296万円(370万円×80%)となります。
従業員が申請するための書類・流れ
会社の破産の場合、従業員は、破産管財人から「証明書」の交付を受け、「立替払請求書」「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入し、「証明書」と切り離さないで機構に送付します。
機構は「立替払請求書」を審査し、支払いを決定した場合「未払賃金決定・支払通知書」を従業員に送付し、従業員の指定した従業員名義の普通預金口座に立替払金を振り込みます。
従業員への会社破産の告知タイミングと伝え方の注意点
会社破産は、従業員にとっても生活の基盤を失う重大事ですし、今後の生活の不安もあります。社長は、会社の経営状況、破産に至った経緯を丁寧に説明することが必要です。丁寧な説明がないと、破産の申立て、破産手続きの中で、一部の従業員の協力が必要となる場合も協力を得られないおそれもあります。
1 早すぎる告知で引き起こされるリスク
会社が破産をする場合、原則として従業員は解雇することになります。そのため、破産申立前には、従業員に破産に至った経緯等を説明し、解雇通知する必要があります。
破産の告知が破産申立直前では従業員の混乱を招きますし、逆に早すぎても従業員に誤解や不安が生じます。
破産の告知は、破産を弁護士に依頼していただければ、弁護士から各債権者へ「受任通知」を発出しますので、そのタイミングで従業員へも告知するのが良いと思います。この「受任通知」発出時期については、社長と協議して決めることになります。
2 弁護士が窓口になることで混乱を防ぐ
社長が従業員に破産の告知をする時、従業員は今後の生活について不安なので少しでもその不安を和らげてあげるため、次のことも丁寧に説明する必要があります。
ただこれらは、弁護士、社会保険労務士等が適切に説明できます。
上述の「未払賃金立替払制度」
「雇用保険」
従業員の生活を保障する制度として「雇用保険」があります。
会社はハローワークへ従業員の「離職証明書」と「資格喪失届」を提出し、従業員の自宅へ「離職票」を郵送してもらいます。
従業員が受給申請をすると、会社都合の退職なので、3ヶ月間の給付制限はなく、速やかに受給することができます。
「社会保険」
従業員は、解雇により、社会保険の資格を失い、今まで使っていた健康保険証を使えなくなります。
そのため、従業員は、次の3つから新しい健康保険証を選ぶことになります。
ア 国民健康保険:従業員の住所地の市町村役場で加入します。
イ 任意継続:今までと同じ健康保険証に最長2年間使用できます。
ウ 家族の扶養:条件を満たせば、家族の健康保険に入ることができます。
まとめ
会社が破産を決める場合、従業員を解雇する必要があります。その時、今後の生活に不安を感じる従業員に対し、社長は、会社の経営状況、破産に至った経緯の他、未払賃金立替払制度、雇用保険、社会保険等につき、丁寧に説明をする必要があります。
会社の破産をする場合、従業員の不安を少しでも和らげたいとお考えの社長は、当事務所にご相談ください。
50年以上の歴史を有する当事務所は、会社破産に関する知見も蓄積されており、きっと社長の意向に沿った解決ができると思います。

