従業員を抱えている会社が破産手続きを選択する場合、事業は廃業し、従業員も解雇することになります。突然に生活の基盤を失うことになる従業員の不安は極めて大きいものです。
ただ、会社破産における従業員への手続きを理解しておくと、従業員の不安を最小限にすることができます。
今回は、会社破産における従業員への手続きにつき、解説します。
解雇通知書
従業員を解雇する場合、会社は従業員に対し、いつ、どのような理由で解雇したかを明確にするため、解雇日、解雇理由を記載した「解雇通知書」を交付します。
離職証明書、離職票
会社は、解雇後、従業員が速やかに失業保険を受給できるようにする必要があります。
そこで、会社は、従業員解雇後、10日以内に「離職証明書」と「資格喪失届」を作成し、ハローワークに提出します。すると、ハローワークから「離職票」が交付されますので、その離職票を従業員に交付します。
従業員は、住所を管轄するハローワークに行き、「求職の申込み」を行った後、離職票を提出します。ハローワークは、受給要件を確認した上で、受給資格の決定を行います。
社会保険関係
従業員は解雇により、社会保険・厚生年金保険の資格を失います。会社は、解雇に際し、従業員から健康保険証を回収し、年金事務所へ提出します。
従業員(その家族)は、病気になると医療費を支払うことになりますが、その費用を30%にするために、国民健康保険・国民年金への切替えをすることになります。
住民税
従業員の住民税は、会社が特別徴収により給与から天引きし、市町村へ納付していました。
しかし、会社が破産すると、住民税の徴収方法が特別徴収から普通徴収に切り替わるので、会社は、従業員の住所地の市町村に「給与所得者等異動届」を提出します。
普通徴収に切り替わると、従業員が住民税を納付することになります。
未払給与・退職金(労働債権)
従業員を解雇した時に、従業員に対し、未払給与・退職金がある場合、
会社は、従業員の氏名、住所、電話番号、未払給与・退職金の金額を労働債権として「債権者一覧表」に記載し、裁判所へ破産の申立てを行います。
労働債権は、その種類、発生時期に応じて「財団債権」「優先債権」として扱われ、会社の資産を換価したものから優先的に配当を受けることができます。
未払賃金立替払制度
1 制度趣旨
会社に資産がない場合、破産手続終了後も未払給与・退職金が支払われません。
そのような場合、未払賃金立替払制度があります。
未払賃金立替払制度とは、会社の破産などを理由に十分な給与・退職金の支払いを受けられない従業員に対して、労働者健康安全機構(以下「機構」と言います。)が会社に代わり未払給与・退職金総額の80%を立替てくれる制度です。
2 立替払受給者要件
次の要件を満たしている従業員です。
(1)会社に雇用され、会社の破産に伴い給与・退職金が支払われないまま解雇されたこと
(2)裁判所へ破産手続開始の申立日の6か月前の日から2年の間に会社から解雇されたこと
(3)未払給与・退職金について、破産管財人の証明を受けたこと
3 立替払の請求期間
会社の破産の場合、裁判所の破産手続開始決定日の翌日から起算して2年以内に未払給与・退職金の「立替払請求書」を機構に提出します。
4 立替払の対象となる未払給与等
解雇日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している給与・退職金です。
但し、給与・退職金総額が2万円未満のとき、及び賞与、解雇予告手当、 は立替払の対象となりません。
5 立替払される金額
未払給与・退職金総額の80%です。
但し、立替払の対象となる未払給与・退職金総額には、次のとおり、解雇日の年齢による限度額がありますので、その限度額を超えるときは、その限度額の80%になります。
解雇日の年齢 | 未払給与等の限度額 | 立替払上限額 |
45歳以上 | 370万円 | 296万円(370万円×80%) |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円(220万円×80%) |
30歳未満 | 110万円 | 88万円(110万円×80%) |
例えば、解雇日の年齢が48歳、未払賃金総額470万円(未払給与150万円、退職金320万円)の場合、未払賃金総額470万円が、45歳以上の限度額370万円を超えているので、立替払額は296万円となります。
6 立替払の請求手続・支払
会社の破産の場合、従業員は、破産管財人から証明書の交付を受け、「立替払請求書」及び「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入し、証明書と切り離さないで機構に送付します。
機構は、「立替払請求書」を審査し、支払を決定した場合、「未払賃金決定・支払通知書」を従業員に送付し、従業員の指定した従業員名義の普通預金口座に立替払金を振り込みます。
まとめ
会社が破産を決める際、従業員を解雇する必要があります。その際、従業員に対し、未払給与・退職金がある場合、会社に資産があれば労働債権として優先的に配当が受けられ、資産がない場合には未払賃金立替払制度を利用することができます。
会社の破産により、従業員に不利益、不安が生じることは避けられませが、その不安を最小限にすることができます。
このようなことでお悩みの方は、一度当事務所にご相談ください。
50年以上の歴史を有する当事務所は、会社破産に関する知見も蓄積されており、きっとあなたの意思に沿った解決ができるものと思います。